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アルツハイマーになった母は、とても魅力的でした

アルツハイマーになった母は、とても魅力的でした

映画「毎日がアルツハイマー」監督・関口祐加さん

ケアステーションジャパン
アルツハイマーを患った母との日々を追ったドキュメンタリー「毎日がアルツハイマー」。楽しく軽妙な日常の会話の中に、介護を“楽しくする”ヒントが込められている。自らカメラを回し、制作された映画監督の関口祐加さんにお話を伺った。

――――お母様を題材に選ばれた理由は。

映画「毎日がアルツハイマー」監督・関口祐加さん

「ドキュメンタリーの監督というのは、常に面白い被写体を探しているものなんです。もともと母は、絵に描いたような良妻賢母で、もの凄く真面目な人でした。それが、アルツハイマーになって、楽しく、明るくなった。母は、アルツハイマーの力を借りて、もの凄く面白い史上最強の被写体になったんですね。だから私は、アルツハイマーになった母が魅力的に見えて、撮りたいと思ったんです」

――――最初にお母様の認知症に気付いたとき、どうされましたか。

「周囲の介護を経験した人たちに『とにかく病院に連れて行きなさい』と言われて、焦りましたね。本人は、いたって普通だと思っている訳ですし。ただ私は監督としてカメラを回していたので、どこか客観的ではありました。私の中には、映画監督の私と、娘である私が混在しているんです。監督の私は、母が認知症だと知って動揺する娘の私を撮りたいと思っていて(笑)。現実にアルツハイマー病と所見を受けて狼狽している自分を喜んだりしているんです(笑)。そこが、多分介護をされている他の方々とは違うところでしょうか。私は、娘であることと同じように、監督であることは、ごく自然なのです」

――――お母様と関口監督との楽しいやり取りがとても面白かったのですが、監督の明るい切り返しが素晴らしいですね。

「介護の問題というのは、介護される側の問題ではなく、する側の我々の問題だとつくづく思うんです。介護の映画というと、する側の苦しさ、辛さに焦点が当てられるか、認知症のマイナスな症状をドラマにすることが多いと思いますが、実は私はそれらには、あまり興味がないんです。介護する側の苦しみとはつまるところ、自己愛の現れなのではないでしょうか。意外と自分で自分の首を絞めていることになかなか気づかない、そこが問題なんですね。私はそれよりも、介護される側、つまり主役である母が何を感じて、どう思っているのか。そこに私は大きな興味を持っています」

――――なるほど。なぜ私たちは介護を苦しく捉えてしまうのでしょうか。

「それは、介護する私たち自身が中年だから(笑)。私が好きな映画監督・デヴィッド=リンチは、『人間は歳を取るとイマジネーションが狭まってくる』と言っています。ずばり、相手の立場に立って物事を考えられなくなってしまうんでしょうね。だから介護される側とぶつかってしまう。私は認知症の母を恥ずかしいと思ったことはありません。むしろ楽しくて、面白いと思っています。母は、確かに顔を洗わないし、お風呂にも入らない、着替えをしない・・・でも、そういったことは、母の今の人生においてはきっと大した問題ではないと考えるんですね。それを深刻に捉えて、介護側が抱え込んでしまうと介護は苦しくなってしまうと思います」

――――発想の転換が必要なのですね。

「そうですね。たとえば最近、母は私たちに対して『どなたさん?』とよく聞くんです。家族の顔を忘れてしまうのではないかという恐怖が母にあって、半分冗談で聞いているんじゃないかなと思います。そんな時、私は『隣のおばさんです!』12歳の姪は『レディー・ガガです!』と答えるんです。すると母は『私はレディー•ババです』と返してきた(笑)。そんなやり取りの中で、私たちは母に『忘れることは大したことじゃない、忘れたっていいんだよ』というメッセージを送っているんです」

――――映画には息子さんと姪御さんが登場しますが、彼らもまた自然で素敵な対応をしています。認知症に対する教育をされたのですか。

インタビュー時には、映画でも「名演」を見せてくれた監督の姪御さん・“こっちゃん”も同席

「いえ、全くしていません。周囲の大人のやり方を見て自然に学んだのだと思います。子どもたちにとっては、アルツハイマーになろうが、おばあちゃんはおばあちゃんなんですね。子どもが子どもらしく振舞っていれば、自然とああいう対応になるんではないでしょうか。認知症になっても人間の尊厳は変わらない、という本質を、子どもは直感で分かっています。むしろ私たち大人が子どもからその事を学ばなければならない。けれど往々にして、大人はむしろ子どもを介護の現場から遠ざけようとしてしまいますよね」

――――この映画を、どんな方に見ていただきたいと思いますか。

「一番は、介護で苦しんでいる方たちに、苦しまなくていい介護の仕方がありますよと伝えたいですね。精神医学的なアプローチでは、介護の問題は『今』に原因があるのではない、家族の歴史があり、家族関係の積み重ねが介護というきっかけを通じて表面化していると考えるのだそうです。ですから、当事者である家族自身がまず、そのことを見つめて考える。それで、全て解決しようというのはどうしても無理だと思ったら、介護のプロに『助けてくれ』と言えさえすれば、いろんな人が助けてくれる。実際、日本の介護保険は世界に誇れるものです。ですから、問題は、介護側が、できないことをできないと言えるかどうか、オープンにそれをカミングアウトできるかどうかがポイントだと思います。それに加えて、アルツハイマーとは何なのかという正しい知識を得れば、絶対に乗り切れるはずだと思います」

――――アルツハイマーのイメージを柔らかくするためにイラストを使うなど、関口監督ならではの手法はドキュメンタリーが好きな方にも観ていただきたい映画だと思います。

「ありがとうございます。お蔭様で、全国各地で好評をいただいており、映画館だけでなくホール等での自主上映会の申し込みも増えてきています。この映画が広まってたくさんの方に観て頂けたら嬉しいですね」

――――最後に一言、メッセージをお願いします。

「私は、アルツハイマーになった母を心底うらやましいと思っています。母は社会の様々なストレスから解放され、人生で初めて自分がやりたいことをやりたいようにしています。自分の見たい世界を見せてくれる母のアルツハイマーの脳、それは神様からの最高のプレゼントかもしれません。ですから、その状況を私たちが上手に見守ることで、幸せな時間を過ごしてもらえればなと思います」
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