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想像し、創造する力

想像し、創造する力

株式会社メディカルチャープラス代表取締役社長・杉原 行里(スギハラアンリ)さん

Care Station JAPAN
誰にでも松葉杖を使う可能性はあるだろう。だがもし、自分が本当に使うことになったら、「どんなものを使いたいか」を想像したことはあるだろうか。
デザインの祭典である“グッドデザイン賞”において、介護分野で見事に2013年度金賞/経済産業大臣賞を受賞した『ドライカーボン松葉杖』。それを生み出した株式会社メディカルチャープラスの代表取締役社長・杉原 行里(スギハラアンリ)さんに、介護福祉用具におけるデザインの役割や、ドライカーボン松葉杖への想いを伺ってきた。

グッドデザイン金賞を受賞した“ドライカーボン松葉杖”開発への経緯を教えてください。

介護をめぐるさまざまな問題に対しては、国のほうでも何とかしようと動いているところではあると思いますが、私自身はとても歯痒い思いを感じています。つまり、変わったほうがいいのはわかっているのに変えられずにいるという状態なのではないか、と。
それは松葉杖に関しても同様で、一生使っていく個人所有を目的としたプロダクトは少なく、対象者が「国」や「病院」などのレンタルユーザーを想定したプロダクトになってしまっており、ユーザーの所有欲を満足させられているのかという問題意識がありました。そもそも消費者が誰なのか、という理解すら欠けていて、改善しなければいけないと分かっていつつもそのままにしてしまっているところはあると思っていたんです。
介護保険法が成立してからは特に介護という業界は注目されて、実際そういった問題を解決すべく、これまでに様々なデザイナーや技術者の方々がこの業界のイメージを変えようと挑戦し続けてきたのではないでしょうか。ですが自発的に新しい取り組みをしようとしても資金面で追いつかなく、コンセプトや試作で終わってしまうといった問題がありました。となると、1つ、2つくらいの新しいプロダクトを打ち出していっても、継続して取り組めなければ何の意味も持たなくなってしまうのです。そのときに、私自身が自由に開発をできる環境に置かれていたり、共感してもらえる多くの協力者がおり、継続していける見込みも持っていましたので、今回新たな挑戦として松葉杖にフォーカスをあて、“ドライカーボン松葉杖”開発に至りました。

なぜ福祉用具の中で、松葉杖を選んだのでしょうか。

メディカルチャープラスとは、共同代表であるアートディレクター山崎晴太郎氏と私が、『医療と福祉にデザインと情緒を』という想いから始まった企業です。
なので、特別、松葉杖を変えてやる!という熱い想いから始まったわけではないんです。
キッカケは、一通の松葉杖ユーザーの方から、かっこいい松葉杖が欲しい!という切実な思いがこもったメールを頂いたことでしたね。 そして、詳しく調べていくうちに、松葉杖って、長い間、形がほとんど変わっていないなと疑問に感じたのも大きな要因でしたかね。
本来は人によって使用する杖の形が違うのが普通ですが、今まで松葉杖の構造を力学的に解析したのかなという、一つの疑問が浮かびました。解析をすることで、今までの松葉杖の形状で実際は要らない部分、余分なものが多くあると判明しました。量産性であったり、コストであったり、同じ形を継続的に製作してく必要性など様々な問題が存在したのだと思います。ですが、結局一番大事なコンシューマーへの想いが不足していて、結果消費者に選ぶ喜び、すなわち多くの選択肢を与えられていなかったのではないかと。あえてリスクを冒して開発に臨む企業がいくつあるのだろう、と考えたときに、我々のような異業種が鋭角に切り込んでいったほうが面白いことができるのではないか、と思いました。

介護の分野でグッドデザイン賞金賞を受賞というのは前例がなかったと思いますが、受賞に至った決め手はどういったところだと思いますか。

正直な話、グッドデザイン賞を狙うということは視野に入れていなかったんです。本当は、手始めに海外からデビューさせるつもりでいました。このような尖った概念を持ったプロダクトは海外の方が浸透が早いのではないかと考えたからです。ですが、グッドデザイン賞のエントリー締切数日前に提出し、今回金賞をいただくことができました。本当にラッキーだったと思います。審査員の方々には、介護という分野に少しでも光を当ててデザインのなすべき役割を示すことができたら、という思いがあったのではないかと思います。日本の今後の高齢社会へ対するデザイン表現のひとつの姿勢としての“ドライカーボン松葉杖”という新しい概念が、今回受賞へ繋がったのかと思います。

ドライカーボン松葉杖が脚光を浴びたことで、今後松葉杖を使用する方や、つくるメーカーの方々にどういった変化を期待しますか。

松葉杖自体は直接的に命に係わるものではないですので、もっと選択肢豊かなファッションの様に、そして遊び心などを取り入れていいはずですし、デザインの部分を積極的に取り入れていくべきだと思います。異業種である私たちがドライカーボン松葉杖を世に出すことで、少しでも他のメーカーが『あいつら、やりやがったな!』って思ってくれると嬉しいです。そうすることで、他のメーカーも興味を持ってくれたり、新しいものをつくったりということが起きれば、今後ムーブメントが起こってくるのではないかと考えております。そうやって切磋琢磨し、お互いが盛り上げていけることを今後はさらに期待しています。

今後の展開について教えてください。

介護分野は、コンシューマーとのコミュニケーションの取り方や関係性が非常に特殊だなと感じています。一人一人に寄り添うのはもちろん大事な部分ですが、全てを公平にという部分にはいささか疑問を感じています。ですので、従来のシステムの有効的な部分と、時代にあったコミュニケーションの取り方を融合することによって、より介護や福祉を身近に感じられる手段があると強く思っています。
そういったインフラの整備が整い始めようとしている今こそが、私たちはビジネスチャンスだと思っております。私たちは新たなコミュニケーションの方法を現在構築しているところですので、近々発表できればと思っています。
「介護を敬遠しがちな社会だが、それは皆が見せないようにしているため。誰もが自分の人生の中に『介護』というストーリーを感じられたら、もっと障害者や高齢者に新たな人生の選択肢を提供できるのではないか、そして何より大事なのは医療と福祉にデザインと情緒を付与できたら」と杉原さんは語る。介護はなかなか科学やデザインのフォーカスが当たらない分野でもあり、“デザイン”とはなかなか結びつかないこともあるが、考え方一つで、松葉杖ももはや従来とは全く違う視点を持ったおしゃれなアイテムに変わることが証明された。常に先を考え、創造する力を持って輝き続ける杉原さんの今後の挑戦が楽しみだ。

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